「プルーストとイカ」【目次】2010/10/31 23:59

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■ Part 1 脳はどのようにして読み方を学んだか?

第1章 プルーストとイカに学ぶ

第2章 古代の文字はどのように脳を変えたのか?

第3章 アルファベットの誕生とソクラテスの主張

■Part 2 脳は成長につれてどのように読み方を学ぶか?

第4章 読字の発達の始まり それとも、始まらない?

第5章 子どもの読み方の発達史 脳領域の新たな接続

第6章 熟達した読み手の脳

■Part 3 脳が読み方を学習できない場合

第7章 ディスレクシア(読字障害)のジグソーパズル

第8章 遺伝子と才能とディスレクシア

第9章 結論:文字を読む脳から「来るべきもの」へ

7章 ディスレクシア(読字障害)のジグソーパズル2010/10/20 11:34

【7章 ディスレクシア(読字障害)のジグソーパズル】

●ディスレクシアを見直す

レーシングドライバー、ジャッキースチュワート;世界有数のレーシング・キャリア;ディスレクシアでもある

「ディスレクシアであるとはどんな気持ちがするものか、皆さんには決してご理解いただけないでしょう」

・読み方を覚えられないばかりにもたらされるこの悲劇がどれほど繰り返されているか

・自分の息子がディスレクシアと診断されてから、自分の子ども時代のことについて得心がいった。

・診断が遅れるというのも、ディスレクシアの物語に付き物の現実

・時にはハッピーエンドを迎えることもあるが、いつもそうとは限らない。

・ディスレクシアの研究に携わっている大勢の者がやりきれない気持ちにさせられるのは、障害の連鎖が、大部分は回避できるものであることを知っているから

・書記言語を習得できない脳の原因を探れば、その働きを別の角度から見ることができるようになる

・文字を読む脳について理解すれば、ディスレクシアを別の観点から見直すことができる

・読字をはじめとする文化的発明は、脳が秘めている驚くべき可能性の一つの表れにすぎない

・ディスレクシアの研究が厄介な大仕事である理由3つ

 1.文字を読む脳に求められる条件の複雑さ

 2.多くの研究分野が関わってくるという事実

 3.ディスレクシアの人々は、非凡な長所と圧倒的な弱点を兼ね備えていること

・世界的に通用するただ一つのディスレクシアの定義はまだない

・用語の問題;”ディスレクシア”より一般的な”読字障害”や”学習障害”を使う者もいる;興味深い洞察と、生じうる無駄な悲劇を解明できるのなら、何と呼ばれようと構わない


●ディスレクシアになる四つの原因

・神経生理学者エリス;ディスレクシアの正体は、”読字障害”だけではない

 進化の観点からは、脳は文字を読むように作られたわけではない

 ディスレクシアが脳の”読字中枢”の欠陥といった単純な問題であるはずがない;”読字中枢”など存在しない

・読字のピラミッド(図7-1);読字回路の発達がうまくいかない場所と理由を図に

 20世紀の学者は、第2層(認知レベル;知覚、概念、言語、注意、運動のプロセス)の問題こそ謎をとく鍵だと考えた。

 最近では、第3層、神経系の構造物とその接続を調べるイメージング研究が盛ん

 第4層、ニューロンの機能集団;情報から永続的な表象を形成

 最新の研究では、最下層、ニューロンをプログラムする遺伝子に焦点をあてているものもある。

 読字回路を次世代に伝えるための専用の遺伝子が存在しない;

 文化的発明は、言語や視覚のように、”誕生の贈り物”として与えられることはない。

・本書では、文字を読む脳を進化という観点から見ている。

 脳の3つの設計原理;

 構造物を再編成して新しい学習回路を形成する能力、ニューロン群を情報の表象形成用に特殊化する能力、情報を自動的ともいえる速度で検索・統合する能力

・ディスレクシアの基本的原因

 1.脳の構造物に発達上の、おそらくは遺伝子に関わる欠陥がある

 2.自動性を獲得する上での障害

 3.構造物間の回路接続の障害

 4.従来の回路とまったく異なる回路が再編成される

・読字障害の原因の中には、すべての書記言語に共通するものも、特定の書記体系に固有のものもある

・ディスレクシアに関する総合的な情報を、脳の設計原理に沿って整理することにより、読字障害の研究が文字を読む脳に関する知識の向上に役立つ


○第1の原理ーー古くからある構造物の欠陥

・20世紀に提唱された説の大部分;視覚システムに始まる回路の古くからある構造物のひとつに原因

・ムッシュXの症例;神経科医デジュリンの読み書きに関する新説;

 左視覚野と脳梁(2つの半球をつないでいる繊維の束)後部を損傷;

 右半球でものを見ることはできても、見たものを左半球の言語野や左半球視覚野の損傷部に伝えられない

 視覚の役割と接続の重要性

・神経科医ゲシュビント;”離断症候群”書記言語などの特定の機能に必要とされる脳の異なる部分が相互に切り離されたことが原因で機能できなくなった

 ムッシュXの症例は2種類の説を反映;視覚システムの損傷&読字回路の接続障害

・聴覚システムに問題があるとする説2つ

 1.読字研究者フィルズ、1921年;読字に問題を抱えた子どもたちは、文字が表す音の聴覚イメージを形成できない

 2.神経科医・精神分析家シルダー、1944年;読字障害者とは文字をその音と関連づけることと、話し言葉を音に分解することができない者である

 →単語に含まれている音素を処理する能力の欠如

・1970年代、言語学者チョムスキー;心理言語学(言語を人間の心理的過程と結びつけて研究する分野)

 ディスレクシアは言語に根ざした障害であるという見解は、それ以前の知覚と視覚を問題視する説を根底から覆した

 心理学者リーバーマンとシャンクワイラーの研究;

 重度聴覚障害児では、十分な読字能力を持つ子どもはわずか;普通の子どもとの違いは、単語に含まれている音の音素表象の有無

 読字は、感覚主体の聴覚による言語音の知覚よりも、むしろ言語学的に高度な音素分析スキルと認識スキルに負うところが大きい(図7-4)

・読字障害の原因は知覚構造物にあるとする考え方から目を転じさせた研究;

 実験心理学者ヴェルティノ;視覚の反転(bがd、pがqと、左右反対に見える)は、知覚の欠陥ではなく、当該の音を表す正しい言語ラベルを検索できないことに原因がある。

 読字障害の子どもたちに、典型的な反転文字の対を見せ、文字を書く(視覚プロセスの非言語課題)、あるいは読む(言語課題)を与えた。

 書くほうは正確、読むと必ず文字の名前を間違えた→障害の原因は言語スキルにある

・何百もの音韻研究より、読字障害のある子どもたちは、個々の音節と音素を、平均的な読字能力を持つ子どもたちと同じようには知覚、分割、または操作していないと証明されている。

・ディスレクシアを音韻論の観点から説明することの最大の効用;初期の読字指導と改善に及ぼす影響

 トーゲセンとワーグナーらの研究;読字障害に取り組むためには、幼い読み手たちに音素認識と書記素と音素の対応を系統立てて明示的に教えるプログラムに勝るものはないと実証

・音韻研究は、最も研究が進んだ読字障害構造原因説

・他の構造原因説;

 注意・記憶の形成や読解のモニタリングを含む前頭葉の実行プロセスに関する説

 言語プロセスのタイミングのさまざまな面にかかわっている小脳後部に関する説

 運動の協調性と観念化の結びつきに関する説
 
・構造原因説タイプの仮説をすべて検討した結果を総合的にとらえることが、全体的なポイント(図7-5)

 仮説を集めると、汎用読字システムの主要部分がほとんど覆い尽くされる;ディスレクシアの原因をまとめると、文字を読む脳の主要構成要素
 

○第2の原理ーー自動性獲得の失敗(処理速度の不足)

・読字に必要な構造物内での処理速度の不足;読字回路のさまざまなパーツが流暢に機能しないため、読解に割ける時間がなくなる

・視線の流暢さに問題

・ブライトマイヤーとラブグローヴ;ディスレクシアの人々の視覚情報処理速度が普通とはかなり異なる;

 2つの視覚的”フリッカー(ちらつき、編注:点滅とも訳す)”が融合して、ひとつの視覚刺激として認識される;情報処理速度が遅いため

・聴覚情報の処理速度

 最も基本的な検出レベルでは、読字障害者も平均的な読み手と変わらないが、少しでも複雑になったとたんに、差が生じる。

 この差を生み出すのは、単語に含まれている音素や音節の微妙な違いに影響をを及ぼす要素。

・ゴスワミの研究;3カ国(英国、フランス、フィンランド)でのディスレクシアの子どもたちが、自然音声のリズムに鈍感

 自然音声のリズムは、強勢や”ビート(拍)・パターン”をどう変化させるかによっても影響される

・運動プロセスの速度の遅さ

・精神科医ウォルフ;メトロノームに合わせて足拍子;

 ディスレクシア児において運動野の自動性が問題になるのは、

 読み手がひとつの行動を構成する個々の要素を組み合わせて、”時間的に正しい順序に並べた大きな集合体”にしなければならない場合

・ディスレクシアを抱えた多くの子どもたちは、ある課題の構成要素を正確かつ順序よく、しかも迅速に接続する必要に迫られると、

 最も基本的な知覚処理のレベルではなく、運動機能や目、耳のレベルで破綻をきたしてしまう

・心理学者ブレズニツ;多種多様な課題を用いてディスレクシア児の研究;

 読字障害者の視覚プロセスと聴覚プロセスのあいだには”時間のギャップ”(非同期性)があるらしい

・ディスレクシアを予測する最良の判断材料のひとつは、”命名速度”と呼ばれる、制限時間付きの課題;認知プロセスをほぼすべて盛り込んだ課題

 色の命名と読字のシステムは同じ神経系構造物をいくつか使用しているうえに、多くの認知・言語・知覚プロセスを共有している

 幼稚園に上がるまでに十分発達する、色を命名する能力は、読字習得の成否を占う優れた判断材料になる

・小児神経科医デンクラ;色の命名課題;ディスレクシアのある読み手は、色の名前を完璧に言える;彼らにできないのは素早く答えること

 デンクラと神経心理学者ルーデル;多数の反復文字、数字、色、物の名前をできる限り速く言わせる”高速自動命名(RAN)”課題;

 RAN課題は、試験対象としたすべての言語において”最も優れた読字能力の予測因子の一つ”と確認されている

・新しい命名速度課題”高速交互刺激(RAS)”課題の基礎となる。

 RAS課題は、筆者が、RANの命名要件に注意プロセスと意味プロセスを追加するために考案したもの

・多くのディスレクシアの症例において、プロセスのごく初期の要素をつなぎ合わせるのに時間がかかりすぎる;考えている時間がない

・命名速度の不足は、ディスレクシアの原因ではない;読字プロセスの速度を遅らせている根本的な問題の指標

 命名の基礎をなす脳のプロセスと構造物は、読字の根幹をなす主要なプロセスと構造物のサブセット

・命名速度の裏には進化にまつわる話が潜んでい

神経学者ポルドラックと筆者のグループの研究;命名速度について調べた脳画像(図7-6)

 文字と物体のいずれに命名する際にも、側頭-頭頂領域(37野)にある古くからの物体認識経路を使用

 文字と物体の3つの相違

 1.文字命名より物体命名の時のほうが、重要な側頭-頭頂野がはるかに活発に活動する;

   物体は限りなく存在;特殊な能力を必要としない;完全に自動化されることはない;多くの皮質スペースが必要;リテラシー獲得前の”全員の”姿

 2.文字のほうが、側頭-頭頂野を合理的に使用;

   読み書きできる脳は、視覚情報処理を特殊化し、特殊化した情報を自動的に処理する能力がある;どんな読み手でも、RAN課題で物体命名より文字命名のほうが短時間でできる

 3.文化的な発明である文字は、汎用読字脳における読字に使われる他の”古くからの構造物(特に側頭-頭頂言語野)”も、物体より活発に賦活させる

   RAN課題やRAS課題などの命名速度計測が、既知のどんな言語の読字能力でも予測できるのはそのため

   物体命名時と文字命名時の脳画像を並べてみると、読めるようになる前の脳と読めるようになった脳の進化の写真を比較しているように見える

・ディスレクシアを早期発見するための大切な発達上の意味合い

 3歳児でも、物体命名が遅くないかを調べることができる;将来の読字障害をはるかに早い段階で予測しうる;イメージング研究の進歩を願う

 ある回路の特定の構造物のみを使用しているのは、リテラシーという新しい課題に順応できないことの原因なのか、それとも結果なのかを研究する糸口となる


○第3の原理ーー構造物間の回路接続の障害

・構造物間の接続の重要性;読字回路内の接続も、構造物そのものに匹敵するほど重要

・19世紀半ばの理論家たちはこのタイプの仮説を主張;

 圧倒的に多かったのは、視覚・言語プロセスないしは視覚・聴覚システムに障害の原因があるとする2通りの考え方

・離断の3種類の形

 1.イタリアの神経学者;ディスレクシアを抱えたイタリア語の読み手;前頭葉と後頭葉の言語野のあいだに離断があると思われた;

   ”島(インシュラ)と呼ばれる広い接続領域の活動が不活発;自動処理の要”

 2.エール大学とハスキンズ研究所;側頭-頭頂領域を研究(どの言語でも文字の読み始めに賦活される、きわめて重要な領域)

   37野の接続の仕方がディスレクシアでは異なっている;

   障害のない読み手の場合、左半球の37野(後頭野と前頭野のあいだ)に、もっとも強力で最も自動性に優れた接続が構築される

   ディスレクシアの場合、最も強力な接続は、左側頭-頭頂野と右半球の前頭野のあいだに生じる

   これに加えて、順調な読字初心者が頼りにする左角回が、ディスレクシアでは読字中と音韻情報の処理中に、左半球の他の言語野と機能的につながっていないらしいことを確認した神経学者もいる。

 3.ヒューストン大学のグループ;脳磁気計測(MEG)というイメージング法;

   ディスレクシア児の脳の活動は、左右の後頭葉の視覚野から右角回を経て、前頭葉に移動すると確認された。

   全く別の読字回路を使用

   筆者と共同研究者;ディスレクシアでは左角回の活動が乏しいうえに、普通ならば当然賦活されているはずの左側頭-頭頂葉がほとんど活動していないという所見


○第4の原理ーー異なる読字回路の使用

・神経科医オートンとギリンガム;1920~30年代の臨床研究;

 読み書き障害を”象徴倒錯症”つまり”ねじれたシンボル”と呼び改めた;

 普通は優位にある左脳半球が文字や文字列の正しい向きを選択する

 ディスレクシアの場合は、このパターンの半球優位性が生じていないか、著しく遅れている

 左右脳半球の情報交換がうまく行かないために、一部の子どもたちは文字の正しい向きを選択できないのだ

・1960~70年代の研究者ら;ディスレクシアの場合、左半球は右半球に比べて読字関連のさまざまな課題を処理するのが苦手らしい

 両耳分離聴課題;読字障害児の聴覚プロセスにおける左半球の使い方が、平均的な読字能力を持つ子どもと異なる

 神経心理学者;一連の視覚・聴覚・運動課題による検査;

 読字障害者の処理速度が有意に劣っているばかりでなく、両耳分離聴課題では、ディスレクシアの人々の右半球が優位にあることを確認

・1970年代の研究者ら;視覚野の働きが意外にも左右対称であるうえに、左半球が言語情報処理を驚くほど苦手としていることを、単語認識検査で明らかにした。

 側性化検査(左右の脳半球のどちらが得意の担当分野としているか)では、ディスクレシアの人々がさまざまな課題で異常なまでに右半球に依存しているという結果

・現在、脳のイメージング研究者らは、オートンの考え方と半球処理に関する旧来の諸説を見直し始めている。

 ジョージタウン大学の研究グループ;典型的な読字神経回路の発生に関する研究;

 右半球の大きな視覚認識系が単語の読みに”次第に関与しなくなる状態”が時と共に進む一方で、

 左半球の前頭、側頭および後頭側頭領域の関与は強まってくることを確認

・サリーとシェイウィッツ;単純な視覚課題から複雑な押韻判定課題までの、一連の読字に関わる課題;

 ディスレクシアでは予想外の回路;前頭領域を活発に活動;左後頭領域、左角回の活動は不活発

 普通なら左半球の諸領域がより効率よくこなしているはずの機能を、おそらくは機能代償という形で、右半球の”補助”領域が受け持っていることを確認

 同チームの最近の研究;読字障害のない成人、読字障害のある成人2群

 読字障害の2群;代償が認められるが流暢性障害のある群、代償が認められず環境による影響を受けている持続性障害の群

 障害のない群と、代償の認められない持続性障害の群の基本回路は同じような構図

 代償が認められる群(古典的ディスレクシアのプロフィールに近い)は、後頭側頭領域も含めた、右半球の諸領域を活発に働かせる一方で、

 他の2群が使用した左後頭領域は十分に賦活させていなかった。

 持続性障害群は、障害がない者以上に、左後頭側頭領域を使用していた;持続性障害群では、分析ストラテジーより記憶ストラテジーが活用されていることを示唆

・ディスレクシアの人々の、視覚情報、綴り情報、音韻情報、意味情報の処理の仕方に関する主な脳画像のイメージ図(図7-8)

 あらゆる処理段階に見られる遅延;遅れが150ミリ秒を越えると追いつけない;

 ディスレクシアの脳は、視覚連合野と後頭側頭領域はもとより、右角回、縁上回、側頭領域に至るまで、一貫して左半球より右半球の構造物を多用している

 きわめて重要な役割を担っている前頭領域は両側とも使用しているものの、その賦活にも遅延が見られる。

・どの研究結果も、限られた数の被験者から得た統計的平均を、最善を尽くして解釈したものに過ぎない。

・もし、ディスレクシアでは右半球優位の読字回路が働いているという、この新しい考え方が一部の子どもたちに当てはまるとしたら、

 そうした子どもたちの脳ディスレクシアの脳は、綴り、音韻、意味、統語、推論のプロセスを

 普通よりゆっくりと見、聞き、検索し統合しているだけでなく、それらすべてを、

 時間的な精度とは無縁に設計された脳半球にある構造物から成る、普通とは大いに異なる回路を使って行っていることになる。

・ツェンとワンの主張:左半球は人間の音声言語と文字言語に必要とされる絶妙な精度とタイミングを処理できるように進化した。

 右半球は、創造性やパターン推測、文脈認識スキルのように、規模の大きな作業を得意とするようになった。
 
・異なる言語間のみならず、同じ言語・書記体系のなかでも見られる読字障害者の多様性;読字障害の多次元的な把握

・研究の焦点は、ディスレクシアの”根本原因”の発見から、ディスレクシアを抱えた人々の最も一般的な類型の確認へと移りつつある


○厄介な原理ーー言語によって異なる、障害の表れ方

・筆者とバウアーズ;単純なアプローチで複数の障害を検討;

 読字障害を持つ子どもたちが、ディスレクシアの最も優れた二つの予測因子の欠陥に基づいて定義した類型にあてはまるか調べた

 類型1は音素認識の障害(構造原因説)

 類型2は命名速度の緩慢さ(処理速度と流暢さの代わり)

 類型3は両方の欠陥の併存

 英語を母国語とする読字障害児の4分の1には音素認識障害しか見られなかった

 重要なのは、流暢さの障害のみが認められた読字障害児が20パーセントにわずかに届かなかった→英語では少数派

 ドイツ語やスペイン語などの規則性の高い言語では(流暢さの障害が)はるかに大きな割合を占めている;英語では見落とされがち;後になって流暢さの障害や読解力の不足

 類型3は最もありふれているが最も厄介;古典的ディスレクシア;

 読字障害児の1割ほどは、この分類方法では漏れてしまう。

 心理学者ペニントン;構造的データと遺伝子情報も分類要件として組み込むことができるような多数の類型を含めた分類システムが必要

モリスら;ディスレクシア児の中で最も障害が重い被験者群には、二重の障害だけでなく、短期記憶障害もあることを実証。

・二重障害の枠組みは、国際的に通用するようになりつつある

 英語;それぞれの類型に分類できる子どもの割合に大差はない

 標準アメリカ語以外の方言;割合に大きな差;

 アフリカ系アメリカ人;二重障害と音韻認識障害の類型に分類される子どもが飛び抜けて多い;

 有望な仮説;社会言語学者ギドニーと筆者;方言間の微妙な差のほうが(まったく異なる音素を持つ言語を話す場合よりも)、子どもの音素認識の大きな障害となる可能性


●遺伝子原因説の検討

・どの言語でも、何に重点が置かれているかによって(ドイツ語は流暢さ、中国語では視空間記憶、英語では音素認識スキル)ディスレクシアは幾分違った顔を覗かせる

 読字障害を予測するための判断材料も異なっている

・香港の研究者たち;中国語を母語とするディスレクシア児の類型の中には英語圏の二重障害タイプの類型もあるものの、

 実に興味深い類型も存在→正字プロセスの障害

・マドリッドの研究者たち;スペイン語を母国語とする子どもたちのあいだでは、二重障害タイプに似た類型;

 ひとつ目立った相違;最も障害が重い類型においても、スペイン語を話すディスレクシア児の読解力は、英語を話すディスレクシア児ほど大きく損なわれていない

・ヘブライ語でも同様のデータ;ハイファ大学の研究者たち;ヘブライ語の話者のほうが(英語の話者よりも)読解力に視床が少ない

 スペイン語やヘブライ語は、英語ほど読解に時間がかからないため、読解に長い時間を割けるから

・言語間研究が教えてくれること;ひとつの書記体系が持つ特定の主要特徴が障害の現れ方に影響をおよぼす

 英語やフランス語などの規則性が乏しい言語;読字習得に音韻スキルが特に重要な役割を担う場合;

 音素認識と解読の正確さが著しく不足することが多い;ディスレクシアのよい予測因子となる

 これらのスキルが読字をそれほど大きく左右しない場合(ドイツ語のように正字法がわかりやすい言語、表語文字の要素が強い書記体系);

 処理速度が読字能力を判断するうえでの最強の予測因子になる

 英語よりも平明な言語(スペイン語、ドイツ語、フィンランド語、オランダ語、ギリシャ語、イタリア語)では、ディスレクシア児は

 単語の解読にはそれほど困らないが、脈絡のある文章をすぐれた読解力で読むことのほうに問題を覚える

・漢字、片仮名、平仮名と3種類の書記体系を同じ文章中で使いこなす日本の子どもたちの場合;

 仮名文字の平明さと単純さ;視覚的にとらえられる五十音図;効率性の向上;

 (アルファベット体系に必要とされる)徹底した音素処理に代わる視覚的なストラテジーをとることもできる

 日本語の書記言語のように複雑な書記体系では、読字が難しい要素はほかにも多々ある;

 視覚情報処理、注意配分、ひとつの書記体系から別の書記体系への切り換え、記憶負荷量、音素の表象と自動性の問題

・21世紀の研究者たち;脳の古くからある構造物の発達と、それらが効率よく協調して働く能力とを支配する、かなり限られた数の遺伝子に原因があるのではないかという説の検討に取りかかろうとしている。

 4タイプの仮説が融合したものになりそう


●ディスレクシアの歴史からわかること

・100年前には、ディスレクシアの存在を知っていた人など一人もいまい。

・最近では、重度の読字障害も、すべての教師が教室で経験するありふれた出来事のひとつ

・読字障害の予測の仕方がわかってきたために、教育の現場にも情報が届くようになってきた。

・もし、世界中の親と教師に向けて話せる時間を5分もらえるとしたら、20世紀の複雑なディスレクシアの歴史が意味するところを次のように話す。

 読み方の勉強は素敵なものですが、読み方をうまく学べないよなら、読字のスペシャリストと臨床医に相談して下さい

 読字障害の欠陥は多種多様。

 英語に限って言えば、たいていの場合はまず読解がうまくいかず、形態素と音素の対応の規則を理解できないところから始まる。綴りや書字に現れる場合も。

 最もよく知られている欠陥の2つは、音韻と読字の流暢さをささえるプロセスに関係している

 英語の場合、音素認識と命名速度のプロセスの尺度が読字障害を予測する最も優れた判断材料。

 多くの言語に共通する判断材料は語彙の豊富さ

 第二言語や方言を学習しなければならないことが原因になる場合もある

 ディスレクシア児への取り組みは、読字にかかわる個々の構成要素、つまり、綴りや音素から語彙、形態素に至るまでの発達と、

 それらの結びつき、流暢さ、読解のための統合にまで、焦点を合わせる必要がある

 どんな形のディスレクシアを抱えている子どもも、”頭が悪い”、”強情”、”やる気がない”のではない。

 子どもも大人もけっして読字障害を知的障害と同一視しないように、働きかけることが何より大切。

 子どもを支えるサポート・システムが必要。

 何にも増して重大な問題は、こうした子どもたちが秘めている多大な可能性を、彼ら自身はもちろん、社会も失ってしまうおそれがあること。

・筆者の息子ベンの例;ピサの斜塔の全体像を緻密に描く;上下逆さま;その方が簡単;普通とは違う空間認識能力

・右半球の読字回路は文字の命名と単語の読みがうまくいかない原因なのか、それとも結果なのか;多くの研究が繰り返し取り組んでいる疑問

・もし私が正しければ、ディスレクシアは脳が代償のために用いた戦略の素晴らしい例だと判明することだろう。

第6章 熟達した読み手の脳2010/10/12 22:35

【第6章 熟達した読み手の脳】

●アメリカの子どもの40パーセントは”学習不振児”

・読字発達の段階が上がると、正確さから流暢さへと歩を進めるのが難しい

・多くの子どもは、この移行を経験せずに終わる;読字障害とはほとんど無関係;

 全米読字委員会、ネーションズ・レポート・カード(学習達成度を調査する全米統一テストの結果)の報告;

 小学4年の子どもたちの30~40パーセントは、流暢な読み手になっていない

・アメリカの学校制度;最初の3年間は”読むために学び”、4年からは”学ぶために読む”

・表面化していない問題;小学3,4年になって正確には読めるようになったが(たいていの読字研究の基本的な目標)、流暢には読めない。

・発達性ディスレクシアとそれに対する取り組みに関する経験は豊富にある;しかし、もっとありふれた読字障害についての知識はほとんどない


●”流暢な解読者”から”戦略的な読み手”へ

・流暢に読解する段階にある読み手は、知識収集に努め、あらゆる情報源から学びとる態勢にある

・解読すなわち読解ではない

・この段階の目標;文章の表面下に潜む意味を探るために、単語のさまざまな用途(皮肉、意見、隠喩、視点)に関する知識を応用する能力を高めなければならない

・心理学者ウィナー;隠喩は、”子どもたちの分類スキルへの扉”を開くものであり、皮肉は、著者独特の”世界に対する姿勢”を浮かび上がらせるものである

・例;マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』の一節;皮肉、力強い表現と隠喩

・ファンタジーの世界は、具体的な認知処理の段階を卒業したばかりのこどもたちにとって、概念保持に最適な環境。

・読字発達のプロセスのこの長い段階では、文章の表層から離れて、表面下の驚きに満ちた領域の探索へと乗り出す

・読字のエキスパート、ヴァッカ;この推移を、”流暢な解読者”から”戦略的な読み手”への進歩と説明

 戦略的な読み手とは;「読む前、読んでいあいだ、読んだ後に予備知識をどのように働かせればよいか、

 文章の中で何が重要であるかをどうやって判断するか、

 情報をどのように合成するか、読んでいる間と読んだあとにどうやって推論を導き出すか、

 どのように質問するか、そして、いかにして自己モニターを行い、読解に欠陥があれば修復するかを知っている読み手」

・教育心理学者プレスリー;流暢な読解に役立つ最大の要素2つ;

 1.英語の授業以外の主要学科分野の授業における教師の明示的な指導

 2.子ども自身の読みたいという欲求

 教師と対話を行うことが、読んでいるものの核心に迫る重要な問いかけを自分に対して行う助けになる

・バリンサーとブラウンが紹介した指導法”相互教授法”;

 生徒がわからないことを質問し、内容を要約し、主要問題を特定し、明確化し、次に起こることを予測、推論することを学べるように、教師が明示的に指導する

・読解力は、それまでの読字発達における認知、言語、情動、社会、指導のあらゆる要素から生まれてくるもの

 プルーストの言う読書に没頭する”神聖な喜び”によって育まれる

・文字を読む生活が発達にとりわけ役立つのは、認識の自動性と流暢な読解力が伸びるこの時期


○皮質の旅ーー脳の経路の切り替え

・流暢に文字を読む脳は皮質の旅をする;その道すがら、解読力と理解力を高め、感受性を獲得する

・応用教育工学研究者ローズ;文字を読む脳の3つの重要な役割

 1.パターンの認識

 2.ストラテジーの計画

 3.感じること

・流暢に読解する読み手の脳画像;辺縁系(情動生活の中枢)と、それに接続する経路の活動が活発化(図6-1)

・読んだものすべてに優先順位を付け、価値を見いだすことにも、この辺縁系が一役買っている。

・幼い脳は文字と単語の認識に苦労する;背側経路(図6-2)

 この低速の経路のおかげで、単語に含まれている音素を組み立てる時間がとれる。表象すべてを”検索”する時間を余分に作れる。

・流暢に読解する読み手の脳;流暢さを獲得するにつれて、左半球のより効率のよいシステム(腹側経路または下側経路)へ切り替え;

 手間のかかる分析は不要;左半球を中心とした文字パターンと単語の表象で、より高速のシステムを賦活

・逆説的に言うなら、脳が発達して、左半球優位に移行することで、両半球は、今まで以上に意味プロセスと読解プロセスに専念できるようになる

・流暢に読解する読み手の脳は、進化した文字を読む脳の最も重要な才能を手に入れようとしている;時間である

 解読プロセスをほぼ自動化させてしまった脳は、思考と感情を別々に処理できるだけの速さを手に入れる


●熟達した読み手の脳とは?

・ヒューイの引用;人は読むときに何をしているのかを完璧に分析することこそ、心理学者の功績の極致

・2分の1秒は、熟達した読み手なら、ほとんどどんな単語でも十分読み取れる時間

・熟達した読み手が使用するプロセスの時間軸について説明(図6-3)


○500ミリ秒までの間になされること


◇最初の0ミリ秒~100ミリ秒ーー注意の神経回路網の方向付け

・すべての読字はいくつかの注意から始まる

 1.ほかから注意をそらす

 2.注意を新しい焦点(文章)に移す

 3.文字と単語に注目する

 これらを注意の神経回路の方向付けと呼ぶ。

 3つの操作はそれぞれ異なる脳領域とかかわっている(図6-4)

 解放は頭頂葉後部、移動は上丘(中脳で眼球運動を司る)、注目は視床(脳内配電盤の一部、情報の統合)

・もうひとつの回路網;注意の実行を司る神経回路網

 帯状回(両半球の前頭葉のあいだの溝の下の広い範囲);

 より前方部分は、読字特有の機能;視覚システムの注意をある文字または単語の特定の視覚的特徴に集中させる機能

 意味処理のための、情報を統合する機能

 作業記憶の用途を制御する機能

・認知科学者は、記憶をひとつの統一体と見ていない

 エピソード記憶(個人的な情報、出来事)、意味記憶(単語や事実に関する記憶)

 宣言的記憶(知識基盤に含まれている”What”を検索するシステム)、手続き的記憶(自転車の乗り方など、知識基盤に含まれている”How”を検索するシステム)

 もう一つの区別;作業記憶(作業を行うために必要な情報を一時的に保存しておく)

・熟達した読み手が文字を読む時は、作業記憶と連想記憶(印象深く、長期間覚えている情報を思い出すための記憶)を使用する。


◇50ミリ秒~150ミリ秒ーー文字の認識、セル・アセンブリとサッカードの動き

・読字学習は脳の視覚皮質を変化させる

・脳の情報処理原理;心理学者ヘッブが提唱;セル・アセンブリという概念

 個々の細胞が協調することを学ぶ(独自の”機能単位”を形成する)ことを学習するという

 使えば使うほど強固になって効率を増し、やがて入力データをほぼ瞬時に処理できる小さなニューロン回路となる

 この動作原理は、脳全体に分布する神経回路網のシステムにセル・アセンブリを結合させて、より大きな回路を構築していく脳の基本的手段

・認識の自動性に寄与するもう一つの要素;文章を追う目の動き

 中心視覚(中心窩視覚)から情報を収集しているあいだ、眼球は絶えずサッカードと呼ばれる小さな運動を続けている

 その合間にごく瞬間的に、停留と呼ばれる眼球停止状態が起こる。

 読んでいる時間の10パーセントは、戻り運動という、すでに読んだところに戻って、前の情報を拾い上げる運動に割かれる

 大人が読むときにサッカードでとらえられる文字数は8文字程度;子どもはそれより少ない

 傍中心窩領域と周辺領域でも”先読み”することができる;英語では固視の焦点から右へ14~15文字先を見ていることが確認されている

・目と脳は密接に結びついている;

 視覚と綴りの表象プロセスは50~150ミリ秒のあいだで起こる

 150~200ミリ秒までのどこかで前頭葉の実行システムと注意システムが賦活;この時、次の眼球運動に影響

 250ミリ秒の時点で、新たなサッカードを起こすか、戻り運動が必要かを判断

・眼球運動は認識の自動性にも貢献;文字群が英語として成り立ちうるパターンを構成するか?成り立ちうる単語が実在の単語か?

 150ミリ秒前後では、側頭頭頂領域(37野)が重要な役割

・デハーネとマカンドリス;読字を習得すると、この脳領域の一部のニューロンが特定の書記体系の綴りパターンを専門に扱うようになる;

 物体認識回路から進化;視覚の特殊化;

・デハーネのさらなる仮説;37野にあるニューロンの特殊化集団は、”視覚性単語形状領野”になる

 本当の単語を形成するものか否かを150ミリ秒前後で判断できるようになる

・英国の認知神経学者はさらに複雑なシナリオ;37野が単語の形状に関する情報を意識にのぼらせるより先に、前頭野は文字情報を音素にマッピング

 熟達した読字の最初のプロセスがほぼ同時に起こっている


◇100ミリ秒~200ミリ秒ーー文字と音、綴りと音素の接続

・書記素と音素の対応の規則を理解することがアルファベットの原理の根本

・ポルトガルの研究者;リテラシーが脳に大きな違い

 学校に通うチャンスが得られなかった群と、後に苦労してある程度のリテラシーを獲得した群を比較

 行動学的、認知・言語学的、神経学的な差

 リテラシー獲得が、単語は音によって構成されていること、音は分解してして並べ替えられることを理解することに役立つ

 60代に入ってから脳スキャン;さらに大きな相違;

 読み書きできない群は、言語課題を、前頭葉の脳領域で処理(記憶して解決しなければならない問題を扱う場合のように)

 読み書きできる被験者群は側頭葉の言語野を使用

 同じような育ち方をしても、リテラシーを獲したか否かによって、脳内の言語処理の仕方に著しい差

・読字の特殊な音韻スキル;

 (英語の)読字初心者は、文字の音素表象を組み立て、それを融合させて単語にすることを学ぶのに四苦八苦する

 規則性の高い言語(ドイツ語、イタリア語など)の読み手;一貫した文字と音の対応の規則をさっさと習得、解読の過程を1年近くも短縮

 皮質が時間軸上に音韻領域をどう投入するかに影響

 規則性の高い言語を読む脳は、規則性の低い言語と比べて、側頭葉の領野に情報を伝達するのが速く、これらの領野を広範囲にわたって使用。

 規則性の低い言語でも側頭葉の領野を使用するが、単語識別専用の領野に頼りがち

 英語とフランス語では、音素と不規則語のほうに重点が置かれるために、100~200ミリ秒のあいだに視覚表象と綴り表象に関する知識が余計に必要になるためだろう。

・中国と日本の漢字の読み手にも同じ一般原則;他の言語より37野を中心とする左半球の後部側頭頭頂領域を多用するうえに、右半球の後頭領野も使用

 100~200ミリ秒のあいだの音韻領域の活動はそれほど活発ではない


◇200ミリ秒~500ミリ秒ーー意味ネットワークの活性化

・ホルコムの研究;つじつまの合わない終わり方をしている文の意味処理;読後400ミリ秒をピークとして200~600ミリ秒のあいだに電気活動のバーストが起こる

・時間軸に関する情報2つ

1.標準的な読み手は、200ミリ秒前後に意味情報の検索が行われる

2.意味が予測と食い違う場合、400ミリ秒付近で情報の追加を続ける

・単語に関する知識が確立されてくるほど、その単語を正確かつ迅速に読めるようになる

・読む速さは、単語がきっかけとなって引き出される意味知識の質と量によって大きく左右される

・未知から熟知までの、単語の知識の連続体;どこに位置するかは、頻度、熟知度、親近性効果によって決まる

・フィンランドの研究者;音韻処理と意味処理の両方にかかわっている側頭葉上部の領域は、

 知識の連続体の”確立された”ほうの端に位置する単語を読むときの方が、速く活性化する。

 意味的”隣接語”が”豊富”であるほど、そして、よく知っているということをよく承知しているほど、その単語を読む速さは速くなる

 意味ネットワークを備えていると、物理的に脳にも反映される


○意味知識と語形情報の連携

・統語プロセス;意味知識と語形情報の両方に結びつき;200~500ミリ秒の範囲ではこれらの集合システムが連携できる


○熟達した読み手では、右半球の言語システムが大活躍する

・生涯を通じて、読字の熟達度がどこまで変化するかは、何を読むか、どのように読むかによって決まる

・2作品から引用;読んだ時の注意の質と人生経験によって何を見落とし、何を異なる形で理解していた可能性があるか検討

・ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』

 読み手が文章に持ち込むものもすべて、読解力に影響

・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』

 型にはまった思い込みとは矛盾する概念の意味を理解するためには、知的な柔軟さが必要

・文章と人生経験の動的相互作用は双方向的;自分の人生経験を文章に持ち込み、文章は私たちの人生における経験を変化させる

・読字が熟達のレベルに達すると、ニューロンのレベルで変化が起こる

・認知神経科学者ジャストら;熟達した読み手が読みながら推論するとき、脳内では2段階のプロセスが進行

 1.仮説を生成(左右両半球のブローカ野周辺の前頭領野;単語が複雑な場合、側頭葉のウェルニッケ野と頭頂葉の一部、右脳とも相互作用)

 2.読み手の文章に関する知識に統合(右半球の言語関連のシステムをそっくり使用)

   解読初心者とは比べものにならないほど、右半球の言語システムが大活躍

・読字発達に終わりは存在しない